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岡山地方裁判所 昭和50年(む)224号 決定

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

本件準抗告の申立の趣旨は、「岡山地方検察庁検察官諸岩龍左が昭和五〇年六月一六日申立人に対してなした申立人と被疑者との接見を拒否するとの処分はこれを取消す。検察官は申立人に対し、その申立があり次第直ちに接見を許さなければならない。」との裁判を求めるというにあり、その理由は「別紙申立の理由」の写のとおりである。

当裁判所は、検察官の意見を聴き、一件記録に基づいて検討する。

申立人は、まだ被疑者の弁護人ではなく、被疑者の弁護人となろうとして行動をしている弁護士であることは本件申立自体により明らかである。刑訴法三九条一項の「弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者」とは、弁護人選任権者(同法三〇条)の依頼をすでに受けているが、まだ選任の手続をしていない者をいうと解すべきであり、まだ弁護人選任権者の選任の依頼を受けていない段階(右の依頼がかつてはあったが、そのごこれがなくなった場合を含む。)で一方的に被疑者の弁護人となろうという考えのもとに行動をしている弁護士はこれに該当しないものといわなければならない。

本件被疑者は、逮捕状により逮捕されたのち引続き玉島警察署において勾留されているものであり、右逮捕時である昭和五〇年六月七日には、司法警察員に対し、救援連絡センターの指定する弁護士を指定する旨の意思を表明していたこと、申立人は救援連絡センターの依頼によって被疑者の弁護人となろうとし、前記諸岩検察官に対し、被疑者との接見の申入をした(申立人はその日は同月一六日といゝ、検察官は同月一七日といゝ、そのどちらの日であるかは定かではない。)が、これを拒否されたこと、被疑者が同月一七日被疑者の両親の依頼を受けた岡山弁護士会所属河原昭文弁護士と一五分間にわたる接見をした結果、同弁護士と被疑者の連署による弁護人選任届が同日作成され差し出されるに至ったこと、ついで、被疑者は同月一八日諸岩検察官宛に自筆で「東京救援連絡センター依頼の弁護士は辞退します」などと記載のうえ署名指印した弁護人辞退届を作成提出し、今後東京救援連絡センターの依頼を受けた弁護士を弁護人として選任する意思の全くなくなったことを明らかにしていることが認められ、右の事実経過によれば、申立人は右弁護人辞退届が作成提出されるまでは東京救援連絡センターを介した被疑者の依頼を受けていたものであり、刑訴法三九条一項の「弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者」であったが、それよりのちは、弁護人選任権者の選任の依頼がない状態で、一方的に弁護人となろうとしている者となり、同条項の「弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者」でなくなったものといわなければならない。してみると、本件準抗告の申立(この申立がなされたのも同月一八日である。)は、申立資格のない者による申立となっていることが明らかであるから申立人の爾余の申立理由について判断をするまでもなく、棄却すべきものとし、同法四三〇条・四二六条一項に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 渡辺宏)

〈以下省略〉

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